現場作業を劇的に変える若い力
ICT(Information and Communication Technology)は、一言で説明すると、最新のデジタル技術、AI技術を建設現場に取り入れ、測量や施工、出来形の管理、検査、そして施工管理の記録などに活用し、工事のプロセス全体を効率化、最適化することを目指そうというもの。例えば、設計図面を3D画像にしたり、ドローンやレーザーを使いより速く広範囲を測量したり、工事がスケジュール通りに進んでいるかどうかの確認をしたり、今後は多方面に活用されると考えられている。先行投資が求められることや、新しい技術に対応できる人材が必要になるなど、いくつもハードルはあるのだが、蜂谷工業ではいち早くこのICTを活用した工事に取り組んでいる。
いち早くICTを導入
―現在の工事現場について教えてください。
塩津:2018年の西日本豪雨で決壊した小田川を付け替える工事ですね。今まであった高梁川と小田川の合流点を下流の方に付け替え、従来の合流点を締め切る工事です。
―主任の三海さんの仕事はどのようなことでしょう。
三海:発注者である高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所の担当の方と打ち合わせをして、現場内を取り仕切る役目をしています。
―いちばん若手の阿部さんは?
阿部:ICTという情報化施工に関しての仕事ですね。図面などを3D化したデータを施工前に重機に転送したり、地形をドローン測量で計測したりしています。また、ドローン測量のデータと図面のデータを比較して、土がどれくらい必要になるかなど計算を行う役割です。
―こうした新しい技術をいち早く取り入れようと思われたのはどうしてでしょう。
塩津:まず、作業の効率化。そして現場技術者の働き方を改善したいという思いがありました。7~8年程前から建設業界全体として取り組もうということになり、当社も比較的早い段階からチャレンジしました。
三海:作業の効率化といえば、例えば土の量をはかる時、従来なら現場で周囲の長さを測定するなどして結構時間が掛かっていましたが、現在はドローンで写真を撮影しデータ化することで必要な情報が把握できるのです。
―ICTを取り入れるうえで、注意していることなどありますか?
阿部:図面を3D化して、こんな形になるのだなと理解できるわけですが、その前提になるのは図面が正しいかどうかです。図面を読む力がないと、ICTを使いこなせないこともあります。
現場を変えたICTの若きリーダー
―新しい技術などを使いこなすためには、そのための研修なども必要かと思いますが。
阿部:蜂谷工業ではICTの専門部門をつくって、そのメンバーが技術やノウハウを広げていこうとしています。
―社内にそのような専門部門を置くとは珍しいのでは?
塩津:社内に専門の担当者がいることで、現場での対応がスピーディーにできるのです。
阿部:塩津所長はこの道30年のベテランですが、ICTの導入にとても積極的で、私のような若手にも責任のある仕事を任せてくれます。また、後輩たちへの技術指導などにも期待をかけてくれています。蜂谷工業のように、自社内にこうしたICTの専門担当者を配置するケースは珍しいそうです。工事現場で起きるさまざまな課題や問題を、協力会社の人たちとその場で解決できるのは、自社内にこうした専門担当者を置いているからこそだと思います。
三海:特に、とても厳しい工期を設けられている場合、ICTの技術があれば現場作業の効率化を図ることができ、工期も短縮できます。
塩津:現在、西日本豪雨で大きな被害を出した小田川の付け替え及び堤防の改修工事の現場を担当しているのですが、いつまた災害が発生するかわからないので、災害対策はスピードが求められる工事です。ICTを活用しているからこそ、工期の短縮化が図れています。
三海主任は、実は西日本豪雨の被災者でもあり、河川の強靱化には特別な思いをもっています。当初10年計画で進められていた河道の付け替え工事を「約5年に短縮化することができたのもICTのおかげだ」と喜んでいます。
協力会社や他社にも活用を広げて
―今後どのような課題があると思いますか?
阿部:現場を3D情報にして管理するとか、最先端の技術を導入することによって、高校や大学で専門分野を学んでいる学生が、「こういう会社だから行きたいな」と、そういうイメージを抱いて入社してくれるとうれしいですね。
塩津:ICTの取り組みでは、おそらく岡山県で業界のトップを走っていると思うので、自社だけでなく協力会社をはじめ地元の業者さんに共有、還元していき、それが社会貢献とか地域貢献につながるようになればと思っています。
ICTにより勤務時間が短縮され、職場環境や仕事内容もずいぶん変わってきました。また、地域のインフラ整備などの効率化、迅速化も図られるでしょう。今後ICTのリーディングカンパニーとして、より高い技術を身に付け、地元建設業界の指導的な役割を果たせるようになれればと思います。